2018.05.21

ART

Special

型にハマった見方はつまらない。
女優・團遥香と現代アートを観る【後編】

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「意味がわからない」「見た目が変」「シュール」と、戸惑う人もいれば、「先鋭的」「カッコイイ」「感動する」という人もいるなど、人によって見方が大きく分かれる「現代アート」。そもそも「アート」に答えはないので、見る人それぞれが自由に感じ、考えればいいのかもしれません。

團遥香さんと見る現代アート。前編では絵画、映像、写真といろんな作品を観た團さんの素直なリアクションから、新しい発見が引き出されていきました。はたして後編ではどんな作品に出会うのでしょうか。

メイン画像:奈良美智 「Eve of Destruction」(部分) 2006年 © Yoshitomo Nara

「抽象画」ってむずかしい? ミュージシャンとの共演でも有名なアーティストの意外な作品

團:緑に囲まれた、こんなに心落ち着く美術館ってステキですね。美術館ってふつう無機質な展示室が並んでいて、順番に見ていくイメージがあるんですけど、ここは古い洋館だし、中庭や廊下にも作品が展示されているので、建物全体がアート作品に思えてきてすごくおもしろいです。

原美術館1F廊下にて

原美術館1F廊下にて

はじめて訪れる原美術館がすっかり気に入った團さん。次に観る作品は、抽象的な白と紫色のイメージの大きな絵です。

大竹伸朗『網膜』(部分)

大竹伸朗『網膜』(部分)1988-90年 © Shinro Ohtake

團:大きくて落ち着いた色合いで、第一印象は、お金持ちの人が家に飾っていそうな絵?(笑) 抽象的な絵って、いま風のすっきりした建築やインテリアに合うので、どこかのお家で見たことがあるような気がします。

さすが、政治家や財界人、文化人の多い家系で生まれ育った團さんならではのリアルなコメント。では、絵に近寄ってよーく見てください。このデコボコ何かわかりますか?

團:これ、怪我したときに貼るテープみたいですよね。でもよく見ると変な破片が画面に埋め込まれていたり、透明の膜でコーティングされていたり、ちょっと工作みたい。これって絵なんですか?

大竹伸朗『網膜』(部分)

大竹伸朗『網膜』(部分)1988-90年 © Shinro Ohtake

この抽象的なイメージは、じつは作家が描いたものではなく、道に捨ててあった印画紙が感光して偶然できたイメージです。つまりもともとはゴミ。それを拾って上に樹脂を塗り、テープを貼ったりして一枚の作品に仕上げています。

作者は大竹伸朗さん。圧倒的な物量で画面を埋め尽くすコラージュ作品や、ミュージシャンとの共演、香川県直島につくられた銭湯『直島銭湯「I♥湯」』などで世界的に知られる現代アート作家です。これは、ポップなイメージのある大竹さんにしては少し珍しい『網膜』という作品。

團:描いた絵じゃなかったんですね。でもどうして?

と、首をかしげる團さん。印画紙が偶然に感光して生まれた色やかたちに意味はありません。それを見る私たちの目もまた、自動的にその像を網膜に写しているにすぎません。大竹さんはもともと意味のないかたちを作品にすることで、現代アートの意味を問うことの意味もひっくり返してしまったのです。

團:ちょっと奥深すぎて、なかなか理解できないところはあるんですけど、日本人ってガラクタにも良いところを見つけてなにかに役立てようとする感性があるので、日本的な作品だと思いました。

と、團さん。つくるほうも見るほうも、こうでなくてはだめという決まりはありません。作家が自由に発想するように見るほうも自由でいい、そんな見方が次第にわかってきます。

原美術館 階段にて

原美術館 階段にて

奈良美智の「かわいい女の子」に込められた、本当のメッセージ

階段を昇って2階の奥に進み、最後の展示室で出迎えた絵を見た團さん。

團:これはわかります。奈良美智さんですね!

と、うれしそう。奈良さんのトレードマークでもある大きな目をした女の子の絵画です。

奈良美智『Eve of Destruction』

奈良美智『Eve of Destruction』 2006年 © Yoshitomo Nara

團:ぱっと見ただけで「これ知ってる!」ってなるなんて、すごい個性ですよね。マスコット的でかわいいし、パステル風の色合いも若い女子に受け入れられやすい。でも本物の絵を間近で観ると、ものすごく繊細に描かれていて、あらためてすごいなって思います。

この作品のタイトルは『Eve of Destruction』。意味は「破壊の前日」。女の子は、ベトナム戦争のあった1960年代に活躍した「The Turtles」というアメリカのロックバンドのレコードを抱えています。この絵にじつは奈良さんの反戦のメッセージが込められていると聞いた團さん、手がかりを絵のなかにもっと探します。

團:たしかに、女の子が立っている場所は緑豊かではなくて、ちょっと荒れていますね。そして後ろの煙は爆撃のあとにも見えます。

原野に二本の足ですっくと立つ女の子。身体は小さいけど、大きな額で一生懸命考えているようにも見えますよね、との解説に、團さんもうなずきます。

團:持ってるレコードジャケットや背景にもメッセージが込められていると聞いて、見方が180度変わります。最初はかわいいマスコットだと思ったんですけど、細かい部分が目に入るようになって、この子の表情も、一生懸命考えながら耐えている女の子に見えてきました。

奈良美智『Eve of Destruction』(部分)

奈良美智『Eve of Destruction』(部分) 2006年 © Yoshitomo Nara

かわいいけどどこか反抗的な表情をした子どもたちは、小さくて弱い存在でも一生懸命生きている。そんな様子を描くことで、奈良さんは未来の子どもたちへエールを送リ続けているのかもしれません。

團:この大きな目でいろんなものを見て、いっぱい考えてほしいっていう期待を込めているんだなと思いました。ふつう反戦の絵って、もっと戦争の悲惨さとかつらい様子を描くと思うんです。でもこうしてかわいいって思える女の子や色合いを使うことで、メッセージがより広く受け入れられるのかなと思います。

そして展示室の奥の扉へと案内されると、そこには小さな白い部屋が。ここが全国の奈良ファンが何度も足を運ぶという、奈良さんのスタジオをイメージした常設の小部屋『My Drawing Room』です。

ドローイングや小物、人形、カセットテープなど、奈良さんが自分の好きなものに囲まれて制作している雰囲気が伝わってきます。「自分の好きなものが詰まっているスタジオは、自分自身と同じようなもの」だと言う奈良さん。いわばここは奈良さんの脳のなかをのぞく部屋なのです。

奈良美智『My Drawing Room』

奈良美智『My Drawing Room』 2004年8月― 制作協力:graf © Yoshitomo Nara
撮影:木奥惠三

團:かわいい! 女の子の夢が詰まった部屋みたいです!

團さん、奈良さんは50代後半の男性なんです。

團:はい、でもきっと奈良さんは脳のなかがこんなにかわいらしいからこそ、ああいう優しい気持ちが現れた絵が描けるんだなって思います。

奈良さんご本人も、たまにふらっとやってきては、ここにある人形や小物を入れ替えたりするそうです。作品の制作年は「2004年―」。この横棒は、2004年から現在も続くという意味です。

團:作品ってできあがったら終わりと思っていたけど、これは変わり続ける。そこに現代アートらしさがあると思いました。5年後、10年後に私が来たときにまた違う景色になっているかもしれない、そう考えるとワクワクします。

子どもが観るために、低い位置に開けられた小窓から同じ部屋を覗いてみると、いままで見下ろしていた床の小物がぐっと近くに見えてきます。

奈良美智『My Drawing Room』を小窓から見る

奈良美智『My Drawing Room』を小窓から見る(部分) 2004年8月― 制作協力:graf © Yoshitomo Nara

團:わあ! 背が小さかった子どもの頃のなつかしい視線で見ると、いっそう親近感がわきますね。

この小窓から覗いていた子どもたちがやがて大きくなっても、またここで忘れていた視線を取り戻すことができる。そんな願いも込められているのかもしれません。

「現代アートを観て、こんなに自由でいいんだ、型にハマってもつまらないな、って思いました」

どの作品にもピュアな感想をたくさん寄せてくれた團さん。あらためて今日、現代アートに触れてみていかがでしたか。

團:現代アートっていうとすごく斬新で難解なイメージがあったんですが、単純に見るだけでもおもしろいし、さらに説明を聞くことで、こういうことだったのか! と違う視点で知ることができてとても楽しかったです。特に日常のインテリアが発想を変えるだけでアートになる、ピピロッティ・リストの『ラップランプ』に一番ぐっときました。

また観るだけでなく、つくるほうにも興味がわいたという團さん。

團:誰もが奥に秘めている「なにか」を表現するのが現代アートなんじゃないかって思ったんです。だから、自分でもつくってみたいと思いました。

たとえばルーヴル美術館に行ったあとは、「あの名画を観た」っていう気持ちになるけど、現代アートを観たあとは子どもの頃の工作の時間を思い出して、つくりたいって思わせてくれました。そして、こんなに自由でいいんだって思いました。自分も普段からこのくらい自由でいいんだ、型にハマってもつまらないなって。すでにモチベーションが変わってきています(笑)。

人間の多様性、そして誰しもが奥に秘めている「なにか」から生まれる現代アートの世界。その自由な表現と見方は、私たち自身が多様で豊かなものであることを教えてくれるのです。

Written by Chiaki Sakaguchi
Edited by Kenta Kimura, Reino Aoyagi (CINRA. inc)
Photos by Hiroaki Sagara

MUNSELL Q&A

Q. 好きな色、苦手な色は?
A. 好きな色:ターコイズブルー 苦手な色:茶色
ターコイズブルーは品があって高級感のあるイメージ。服のなかのワンポイントとしてこの色があるだけでも、人目を惹くカラーだと思います。茶色は土のイメージがあってマイナスカラーの印象です。
Q. もっとも素の自分でいられるのはどんなとき?
A. 人と話しているとき
家で家族とくだらない話をしたり、親友とカフェに行ったりしている時間が一番自分らしく飾らずにいられる時間です。人が好きなので基本誰かと楽しい話をしているだけでリフレッシュされます。
Q. 自分でも驚いた、自分の意外な一面とは?
A. こだわりが強い
細かいことは気にしない男らしい性格だなと思っていたのですが、最近は仕事のことで反省をする時間がすごく多いです。どうしたらもっと上手くなるかなと、一人でいるときは気にしています。
Q. いま一番行ってみたいところは?
A. プーケット
海外の南国に行ったことがないから。プーケットは友人におすすめされた場所で、よくインターネットで画像を見ています。きれいな海で、一日中、プカ〜と浮いていたいです。
Q. 生まれ変わったらなにになりたい?
A. 亀
のんびりと長生きしたいから。
profile

團遥香

http://www.box-corporation.com/haruka_dan

女優、タレント。日本テレビ系朝の情報番組『ZIP!』にレポーターとしてレギュラー出演。そのほか、バラエティ番組やCMなど、幅広く活躍している。

取材時のmovie

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